2025年9月27日、ヒルトン東京で、ソフトウェア開発の未来を予感させる注目のイベント「TRAEのコードバイブの旅 @Tokyo」が開催されました。会場は、最新のAIの世界を探求しようと集まった多くの参加者の熱気に包まれていました。(関連公式投稿はこちら)
主催者である張斌(Chohin)氏は開会の挨拶で、「AIという魔法のような技術が、参加者一人ひとりの創造力を刺激し、新しいアイデアを生み出すきっかけになることを願っています」と語り、活発な交流と一日への期待を話しました。
本記事では、特に当日のハイライトである3つの専門的な講演に焦点を当て、そこで語られた生成AI時代のソフトウェア開発の新たな潮流を詳しくご紹介します。
セッション1:「TRAE 新たな流れ」- AIコーディングの進化と「ネイティブAI IDE」の衝撃(Leon氏)
最初のセッションでは、TRAEのプロダクトマネージャーであるLeon氏が登壇し、「AIコーディングの進化」をテーマにプレゼンテーションを行いました。
Leon氏は、開発者が問題解決のために情報を得る手段が、Google検索からChatGPTのようなLLMへと移行し、開発効率が飛躍的に向上したと指摘。この変化はツールの形態も進化させ、IDE(統合開発環境)内で直接AIと対話できるプラグインが登場しました。
そして、TRAEが目指すのはその先、「ネイティブAI IDE」という新たなステージです。これは単にAIを統合するだけでなく、PRD(製品要求仕様書)やFigmaのデザインデータといった、開発に関わるあらゆるコンテキストをAIに統合し、より自律的な開発を実現するという革新的なコンセプトです。
その実力を示すデモンストレーションでは、AIとの対話を通じてECサイトを自動構築する「SOLOモード」が紹介されました。ユーザーが「ECサイトを作りたい」と指示するだけで、AIが要求仕様書からコード生成、エラー修正、そしてVercelへのデプロイまでを自律的に行う様子は、まさに未来の開発スタイルを垣間見る瞬間でした。
Leon氏は、「AIエージェントの能力は日々進化しており、開発者がAIと対話する時間も長くなり、AIとの協業スタイルが大きく変化していくだろう」と述べ、AIが開発者の真のパートナーとなる未来像を鮮やかに描き出しました。
セッション2:「TRAE Cue」- “予測する”コード補完の新たな地平(Jacob氏)
続くセッションでは、TRAEのテクニカルエキスパートであるJacob氏が、AIプログラミング支援ツール「TRAE Cue」について、その驚くべき能力を解説しました。
Jacob氏が強調したのは、Cueは単なるコード補完ツールではないという点です。その正式名称は「Context Understanding Engine(文脈を理解するエンジン)」。その名の通り、既存のコードやリポジトリ全体を深く理解し、開発者が次に行うであろう編集を「予測」して提案する機能です。
これは、ゼロから開発するのではなく、既存プロジェクトの保守・開発作業の効率化に重点を置いた設計思想に基づいています。スマートインポートやスマートリネームはもちろん、複数ファイルにまたがる複雑な編集箇所さえも正確に予測し、開発者を導きます。
実践デモでは、既存のブログに「最終更新日時」フィールドを追加するタスクが実演されました。開発者がデータベース定義ファイルを変更すると、Cueは即座に関連するバックエンド処理ファイルの複数箇所に必要な修正をまとめて提案。開発者はTabキーを一度押すだけで、数行にわたるコード修正を完了させました。
Jacob氏は、Cueによって全コードの20%以上が生成され、ユーザーによる採択率は30%以上に達しているという実績を紹介。将来的には、人間が5%の労力をかけるだけで、AIが残りの作業を高い品質でこなす「VibeCoding」の実現を目指していると語り、「使えば使うほど、提案が正確になり、コーディングが速くなる」という力強いメッセージでセッションを締めくくりました。
セッション3:要件定義から実装まで – 生成AI時代のソフトウェア開発再考(Damon Deng氏)
最後のセッションでは、AWSの主席AI/MLスペシャリストであるDamon Deng氏が、より根源的なテーマである「生成AI時代のソフトウェア開発手法」について、鋭い洞察を披露しました。
Deng氏は、「『スネークゲームを作って』という一行のプロンプトの裏には、300以上のビジネス的・技術的な意思決定が隠されている」と指摘。これを「見えない氷山」と表現し、ユーザーの意図と、AIが提示する「統計的に最も一般的なソリューション」との間に生じるミスマッチが問題の本質だと説明しました。
AIは無数の選択肢の中から、特定の解(多くの場合「統計的に最も一般的なソリューション」)を選んで提示します。しかし、それは必ずしも「ユーザーにとって最適なソリューション」とは限りません。このミスマッチの根本原因は、具体的なニーズを持つユーザーと、統計データに基づいて動作するAIとの間の「情報の非対称性」にあります。
この問題を解決するため、Deng氏は開発者とAIの新たな関係性を提案します。それは、開発者がオーケストラの指揮者のようにAIを導く「意思決定者」となるアプローチです。
そのために重要な概念が2つ紹介されました。
一つは「中間ドキュメント」の活用です。AIとの対話の過程や決定事項をMarkdownファイルなどに記録・整理することで、複雑な開発プロセスを管理しやすくします。
もう一つは「関心境界(Core Concern’s Boundary)」の見極めです。これは、開発者が「これ以上、内部実装を気にしたくない」と感じる境界点であり、プロジェクトの目的や段階に応じて変化します。この境界の内側は開発者が詳細に指示し、外側はAIに完全に任せることで、両者の協業を最適化します。
これらの概念を統合した新しい開発プロセス「AIDLC(AI駆動型開発ライフサイクル)」も紹介され、AIとの協業を前提とした新しい開発モデルの全体像が示されました。
まとめ:AIとの協業がもたらす、創造性の解放
今回の「TRAEのコードバイブの旅 @Tokyo」で紹介された3つの講演は、それぞれツール、機能、方法論という異なる角度から、一貫して「開発者とAIの新たな関係」を提示するものでした。
AIはもはや、単にコードを補完するだけの”便利な道具”ではありません。プロジェクトの全体像を理解し、次の一手を予測し、時には自律的にタスクを遂行する”頼れる相棒”へと進化しています。 これからの開発者に求められるのは、AIという強力なパートナーをいかにして導き、どこまでを委ね、自らはどこに集中するのかという「関心境界」を常に見極める能力なのかもしれません。AIが人間の創造性を奪うのではなく、むしろ定型的な作業から解放し、より本質的な創造活動へと導いてくれる、そんな明るい未来を感じさせてくれる講演でした。
講演の後、参加者はホテルビュッフェの昼食を取った後で、TRAE Soloを活用したバイブコード開発に臨みました。午後のイベントはハッカソン形式で行われ、3時間の制限時間内に開発した作品を参加者が発表し、1位、2位、3位、特別賞が発表されました。面白い作品が次々と発表され、主催者から1位の発表者には5万円、2位3万円、3位2万円の賞金が贈られ、イベントの合間には抽選会も開催され会場は大いに盛り上がりました。


